経済指標のお話

7月のFOMCで0.75%の利上げ・・・次回9月のFOMCまでに相場をどのように見ておくべきか

2022年8月10日

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7月のFOMC(連邦公開市場委員会)で、政策金利が従来の予想通り「0.75%の引き上げ」となりました。

FOMC(Federal Open Market Commitee)とは

「FOMC(連邦公開市場委員会)」は、米国の中央銀行にあたる「FRB(米連邦準備制度理事会)」が金融政策を決定する会合のこと。

世界中の投資家が注目した今回の金利引き上げは、想定通りの0.75%で金利が上昇したわけですが、結果的には「想定通り=サプライズはなし」だったために、株式は上昇局面となりました。

さて、次回のFOMCは、米国時間で9月21日に開催されますが、それまでに約1ヶ月半の時間があります。

この間に、どのような経済指標が発表され、どのような点に注視して株式市場を見ていたらよいのかを考えてみたいと思います。

国際通貨基金が世界経済の成長率予測を下方修正

国際通貨基金(IMF)が、7月FOMCの開催初日と同日の7月26日に、世界経済の成長率予測を「3.2%」に下方修正しました。

IMF2022年7月

「世界経済見通し」を2022年4月時点の予想は「3.6%」としていたので、さらに減速となったわけです。

(出所:IMF世界経済見通し-陰り見え、不透明感増す)

さらに、2023年予想は2.9%とさらに下がると見られていますが、インフレ抑制の金融政策によって成長率の下げ幅が緩くなると見込まれています。

つまり、さらに成長率は悪くなったんだけど、思ってたよりも悪くならないかもってことだね

景気循環は、成長率とは異なる基準がある

成長率はまだまだ下落しているものの、実際に景気が後退したのか・・
というとその判断を行う「全米経済研究所」は、「景気後退(リセッション)の状況にはない」としています。

NBER(全米経済研究所)とは

「NBER(全米経済研究所)」は、「生産活動」や「消費動向」、「雇用情勢」などから総合的に景気循環を判断する。
経済の動向だけでは景気の良し悪しは判定されない。

今回、GDP成長率が2四半期連続でマイナス成長となりましたが、これだけではリセッションとは判断されません。
事実、元FRB議長のジャネット・イエレン米財務長官も、「リセッションへの兆しは確認できない」と語っています。

では、総合的に景気を判断する指標の1つである「雇用統計」を見てみましょう。

GDP成長率だけではなく、次から出てくる各種指標も重要になってくるよ

雇用統計

7月末のFOMCから1週間くらい後に、雇用統計が発表となりました。

毎月第一金曜日に米労働省から発表される雇用の重要指標を確認しておきましょう。

非農業部門雇用者数

農業を除く分野で雇用された人数の増減を測定する「非農業部門雇用者数」では、予想の25万人増に対し、結果は52.8万人増となりました。

予想の2倍以上となる雇用者数の増加が分かり、この指標でリセッションの懸念が和らぎ、FRBはインフレ抑制に向けた利上げを継続していくでしょう。

失業率

雇用者数が2022年に入ってから、ほぼ予想を上回り、先月7月は予想をはるかに上回る雇用水準となっている一方、「失業率」は横ばいが続いています。
3月から6月まで3.6%と一定の水準で来ましたが、7月は予想を0.1%下回る3.5%となりました。

雇用が順調に増えて、失業者が少し減少したので、アメリカ経済は強い雇用環境の元、景気が回復傾向にあるのか・・というと
簡単にそうとも言えないのです。

失業者が減少している要因は、「労働参加率」を見ると分かります。

労働参加率

労働参加率は、「生産年齢人口」に占める「労働力人口」の割合を示します。
【労働参加率=労働力人口÷生産年齢人口】

生産年齢人口と労働力人口

「生産年齢人口」とは、15歳から64歳までで病院や刑務所などの施設に入って働けない人を除いた人口
「労働力人口」とは、就業者と失業者を合わせた人口

労働参加率は、前月6月から0.1%下がって、「62.1%」となりました。

コロナ禍の影響もあって、失業者の内、「55歳以上の高齢労働者による早期引退」や「専業主婦の選択」などにより、職探しを諦めた人たちが「労働力人口」から消えてしまっているのです。

本来労働市場に戻って来るはずの人たちが抜けてしまったため、失業率の低下、そして労働参加率の低下と言う形で表れてきているのです。

それによって、企業の求人数よりも求職者数の方が圧倒的に少ない「労働力売り手市場」の状態になっています。
つまり雇用者数が伸びるだけでなく、労働者の賃金も上がりやすくなります。
それに伴った物価上昇によりインフレの水準も高くなるのです。

賃金が上がっても、インフレ高進であれば、消費者の実質的な所得は減ってしまいますので、個人消費へとお金が回らなくなります。

そこで、個人消費から物価変動を測定する指標を確認してみましょう。

PCEデフレーター

GDPの先行指標、そして「インフレ指標」として「FRB」も注目するのが「PCEデフレーター」です。

PCE(個人消費支出)デフレーターとは

「PCE(個人消費支出)デフレーター」は、商務省が毎月末に発表する米国内の個人で消費された物やサービスなどの物価動向を示す。
物価変動も含めた「名目PCE」を物価変動分を取り除いた「実質PCE」で割って求めた値が「PCEデフレーター」となる。
その中で、価格変動の大きい食品とエネルギーを除いた物価動向を「コアPCEデフレーター」と呼ぶ。

FRBは、「コアPCEの前月比上昇率が数か月にわたり0.2%を下回るようにならないとインフレが後退したとは言えない」
という見解を示していますが、現状は2022年に入ってからどの月も0.2%を上回っています。

ここまでをまとめると、以下のようになります。

  • 雇用が強くリセッションの心配がない
  • 労働人口が減って労働者の賃金が上昇
  • インフレにより消費にはお金が中々向かない
  • 雇用、賃金、消費の傾向から利上げ継続
  • 利上げのペース幅は今後の景気動向次第
インフレが解消されれば景気は拡大しそうだね

「雇用の安定」は現状達成されているので、「物価の安定」に向けてFRBはさらに利上げペースを推し進めて、インフレ対策に臨むでしょう。

サービス業PMI

インフレ対策による「金融引き締め」を名目に、FRBがFOMC開催ごとに利上げを発表する確率は高いのですが、利上げ幅は景気の動向で大きくなるか小さくなるか変わってくるかもしれません
景気の方向性を調べるのに適している指標の1つに「PMI(購買担当者景気指数)」があります。

PMI(購買担当者景気指数)とは

「PMI(購買担当者景気指数)」は、マークイットが毎月発表する企業の購買担当者の景況感を集計した指数。
PMIの数値が「50」を上回ると景気拡大、「50」を下回ると景気後退を表す。

製造業やサービス業などで個別に発表されますが、今回は「サービス業PMI」で確認してみると、最新の値は「47.3」となりました。

約2年ぶりにリセッションの兆候を見せたので、インフレ対策が使命であるFRBはこのような景気の方向性を表す指標も見ながら、今後の利上げペースを探っていくでしょう。

まとめ

さて、7月FOMCに続いて、重要指標の発表が続いたアメリカ経済の動向を簡単に追ってみました。

雇用状況が「完全雇用」に近く、賃金上昇に伴って景気拡大と行きたいところですが、現状「インフレ」という壁が立ちはだかっているため、消費者には所得が増えている実感が湧いていないのが実際のところではないでしょうか。

次回のFOMCは、9月21日になりますが、その前に
8月25日から27日の3日間で、「ジャクソンホール会合」が開催されます。

ジャクソンホール会合

アメリカのワイオミング州、ジャクソンホールで毎年8月に開催される経済政策シンポジウム

最大の焦点となるであろう「インフレコントロール」の可能性についてはもちろん、経済の需要喚起についても話し合いが持たれるでしょうし、本来の好景気スパイラルを目指した政策が話し合われると思います。

景気状態も少しずつ改善しながら、安値を推移している株価も少しずつ回復傾向となるかもしれません。

”今、米国市場への投資なんて怖くてできない”

と悲観的に考えている方も、長期の積立投資・分散投資などでリスクコントロールをしながら自分なりの資産運用を探ってみてはいかがでしょうか。

  • この記事を書いた人

宮嶋僚

北海道の道南で小さな会社を経営する兼業個人投資家です。投資をこれから始める人のために分かりやすくそして役に立つサイト運営を心がけています。 どうぞよろしくお願いします。

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